連載 てくてく歩行学
中村恒太の
歩行学基礎知識

中村 恒太 プロフィール
認定理学療法士(運動器)、介護予防推進リーダー、NASM-PES(National Academy of Sports Medicine - Performance Enhancement Specialization)等の資格を保有。
診療では、脳血管疾患、運動器疾患を中心に対応。診療以外にも、地域高齢者に対する介護予防講座などを実施し、高齢者の障害予防にも努めている。また、専門分野に関する研究活動、学会発表も積極的に実施している。
現職:2016年苑田会ニューロリハビリテーション病院に入職
専門分野:歩行分析、運動器疾患、介護予防
2 歩行速度と転倒の関係について
歩行速度は、身体機能の状態や転倒リスクを示す重要な指標であり、リハビリテーション現場においても頻繁に用いられる指標の一つです。一般的に、歩行速度が遅くなると転倒のリスクが高まることが多くの研究で報告されています。
歩行速度が低下する要因として、筋力の低下、バランス能力の低下、関節の柔軟性低下などが挙げられます。特に高齢者では、加齢とともにこれらの機能が衰え、歩行速度が低下することが多くなります。その結果、前方への推進力が不足し、不安定な歩行につながりやすくなります。
また、転倒を頻回に経験している高齢者は、そうでない高齢者と比較して歩幅が狭いなど不安定な歩行となっている傾向が強く、歩行速度も遅い傾向になると言われています。
理想的な歩行速度には個人差がありますが、一般的には秒速1m以上(10mの距離を10秒以内で歩行可能)が健康的な歩行の目安とされています。適度な運動や筋力トレーニングを取り入れることで、転倒リスクを低減し、安全な歩行を維持しましょう。
ちなみに、厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」の令和4年度の調査によると、転倒は要介護状態(介護が必要になる状態)になる原因の第3位として報告されています。転倒を予防する重要性が伺えますね。
歩行速度を維持・向上させるためには、日常生活の中でこまめに歩く習慣をつけることが大切です。例えば、エレベーターではなく階段を使う、少し遠回りをして買い物に行くなど、無理なく歩く機会を増やしましょう。日常生活に少しの工夫を取り入れながら、転倒を防ぎ、安心して歩ける体づくりを心がけましょう。
1 歩行動作の基礎知識について
私たちが普段何気なく行っている「歩く」という動作ですが、実はさまざまな機能が連携して働くことで成り立っています。
歩行は「立脚期」と「遊脚期」に分けられます。立脚期は片方の足が地面について体を支えている時期、遊脚期はその足が持ち上がり次の一歩を踏み出す時期です。そして、片方の足が地面につき、再び同じ足が地面につくまでの一連の動作を「歩行周期」と呼びます。
歩行周期の中で立脚期が占める割合は約60%、遊脚期は約40%と言われています。一般的に、足が地面についている時間の方が長くなります。この立脚期と遊脚期の割合が左右で異なると、歩行のバランスが崩れ、ふらつきや非効率な歩行につながることがあります。
効率の良い歩行を行う上で重要な機能の一つに、「足関節ロッカー機能」があります。これは「ヒールロッカー」「アンクルロッカー」「フォアフットロッカー」の3段階に分かれます。「ヒールロッカー」では踵が接地し、体重がスムーズに前方へ移動します。続く「アンクルロッカー」では、足関節が前方へ傾きながら体重を支え、最後の「フォアフットロッカー」ではつま先を支点に推進力を生み出します。これらの機能が適切に働くことで、効率的で安定した歩行が可能になります。
歩行中は正しい姿勢や適切な歩幅を意識することが大切です。効率的な歩行を心がけることは、健康維持にもつながります。
今後のコラムでは、異常な歩行動作、歩行速度がもたらす影響、ウォーキングの継続によるメリットや目安についてご紹介していきます。ぜひご覧ください。